詐欺師の対話設計術
2005年最初の投稿です。今年もよろしくお願いいたします。
新年早々、ネガティブな話題で恐縮ですが、詐欺が流行っています。オレオレ詐欺(現在は「振り込め詐欺」)の年間被害額は200億円らしいので、もはや一大産業と言っても過言ではありません。これまでにも、マルチ商法、霊感商法、結婚詐欺など様々な手口がニュースを賑わしてきました。
最近、私の知っている複数の人から、ある詐欺の手口を聞きました。(私にとっては新手ですが、実は使い古された手法かもしれません。)被害者は、いずれもマスター1人で店を切り盛りしている小規模な飲食店です。詐欺師と被害者の“対話”はおおよそ以下のようになります。
- 詐欺師は「来週、宴会をやりたい」と突然来店する。(なお、詐欺師は他に客がいない時に来る。)
- 詐欺師は宴会の打ち合わせをする。
- 詐欺師は打ち合わせを終えると、いったん退店する。その際に、店主に打ち合わせした内容と店の電話番号を紙に書かせて、それを持ち帰る。
- 20~30分すると、「財布(または現金。1万円くらいが相場)を落とした。さっきの紙も一緒に落としたので、もう1度書いて欲しい」と言って、詐欺師はもう1度店に現れる。
- 店主がもう1度メモを書いていると、詐欺師は「今から○○まで行かないといけない」と困っている様子を見せる。
- 店主が同情して「ちょっと(お金を)貸しましょうか?」と聞く。
- 詐欺師は「5千円くらい貸してもらえないかな。来週、(宴会の時に)返すから。」と答える。
- 店主が現金を渡すと詐欺が成功する。
詐欺師は金銭欲や虚栄心といった人間の“ココロの隙間”につけ込んできますが、この詐欺の上手いところは、適度に「欲」と「同情」の両方を感情を利用している点です。
詐欺師は、まず「宴会を予約」するという商行為を完結しています。これによって、被害者と詐欺師の間には「店と客」の関係が構築されています。そして、この客(詐欺師)は「数万円」レベルの売り上げをもたらしてくれると期待できます。小規模な飲食店にとって、これは結構大切なお客さんです。
そして、この大切なお客さんが目の前でトラブルに見舞われます。
店主は見捨てることも出来ますが、そうすると、この大切なお客さんとの関係にヒビが入る危険があります。もしかすると、お客さんは機嫌を損ねて、予約を取り消してしまうかもしれません。それに、目の前で人が困っていれば、何か手助けをしたいと思うのは、人間の自然な感情です。
普通ならば、そんな時は交通費として千円程度渡すだけだと思いますが、この場合は、「来週の数万円」という“担保”があるように錯覚して、被害者はつい5千円を渡してしまうのです。
ただ、これは「詐欺」と言えるかどうか分かりません。そもそも借用書がないので、店主がお金を貸した証拠はありませんし、たとえ証拠があっても、詐欺師が借りた金を返す意志がないことを証明できないからです。もし、街中で詐欺師を見つけて捕まえても、「すみません、忘れてました。」と言ってその場で返金されれば、少なくとも詐欺罪には問えないのではないかと思います。この手口は、搾取できる金額が数千円と少額ですが、詐欺師にとってリスクの少ない仕事と言えるでしょう。
ところで、私たちインターフェイス設計に携わる者が“詐欺”から学ぶことは、何かあるのでしょうか?
上記のスクリプトを一覧すれば、詐欺であることは明白です。しかし、1ステップずつの対話は、それほど怪しい状況ではありません。つまり、個々の対話は正しくても最後のゴールは正しくないという状況が、対話設計では起こりうるのです。(なお、不正なゴールに強引に誘導するには、どうしても、多少無理な対話が発生します。上記ではステップ4と7がちょっと不自然ですね。)
騙された店主の人たちも、少し時間を置いて冷静に対話を再現してみると、対話全体としての不自然さに気付いたのですが、その時には詐欺師の姿は見当たらなくなっていたのでした。
皆さんも、お気を付けください。
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