2010.05.09

書評: Rocket Surgery Made Easy

ユーザビリティ界の人気者スティーブ・クルーグの新作です。「ロケット手術」とは"すごく難しい(と誤解されている)コト"を皮肉った彼の造語で、要するにユーザビリティテストを示しています。つまり、タイトルを意訳すれば「お手軽ユーザビリティテスト・ガイドブック」といった感じでしょう。

◆Rocket Surgery Made Easy: The Do-It-Yourself Guide to Finding and Fixing Usability Problems
http://www.amazon.co.jp/dp/0321657292

一般に「ユーザビリティの大御所(例えばヤコブ・ニールセンやアラン・クーパー)が書いた本はユーザブルではない(読みづらい)」という矛盾を抱えていることが多いのですが、彼の著作の読みやすさは1作目の「Don't make me think!(邦題:ウェブユーザビリティの法則)」から折り紙付きです。今回も軽妙な語り口で、かつ簡潔にそのノウハウを紹介しています。

彼の主張は3点に集約できると思います。


  • 定期的(月イチ)に小規模(被験者3人)なテストを繰り返そう!
  • 関係者にテストを見学してもらおう!
  • 問題解決では最善を"尽くさない"ようにしよう!

ちょっと"受け"ねらいの表現を多用している感もありますが、内容的には私たち実務家から見ても納得できるものです。特に、関係者に見学してもらうことの重要性と、そのためのノウハウ("おやつ"をケチらないとか)は参考になりました。また、ホームページ(サイトのトップページ)の重要性を改めて指摘している点は、ちょっと意外であり、でも納得のいくものでした。

ただ、全般的には内容は非常にオーソドックスです。ユーザビリティの実務家にとっては新しく得られる知見はほとんどないと思います。それは逆に言えば、初心者にとっては、きっちりポイントを押さえつつ手軽に読める優れた入門書であると言えるでしょう。

残念ながら現時点では翻訳本は出ていないようですが、英語が得意でなくても、辞書を引きながら4~5時間で読了できると思います。それは物理的に量が少ない(実質110ページ程度で文字も大きい)からです。また箇条書きや強調表示を適切に使用してくれているので要点を把握しやすいのです。

「予算も経験もないけれど、何とかユーザビリティテストをしてみたい!」――という場合は、この本を片手にちょっと試行錯誤してみる価値はあると思います。

【参考情報】

◆Advanced Common Sense(スティーブ・クルーグのサイト):
http://www.sensible.com/

◆Usability Demo(ユーザテストのデモ映像):
http://www.peachpit.com/promotions/promotion.aspx?promo=137602

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2009.08.03

書評:世界初?パワポでプロトの解説書

7月に出たばかりの本です。池袋のジュンク堂を定期巡回していて見つけました。

『 PowerPointによるインタフェースデザイン開発 』

http://www.amazon.co.jp/dp/476937173X/

タイトルからは気づきにくいのですが、この本はパワーポイントによるUIプロトタイプの解説書です。

近年、日本でもラピッド・プロトタイピングが注目されるようになって、そのための専用ツールも発売されるようになりました。ただ、専用ツールは比較的高価(7~10万円くらい)ですし、新たに操作を習得しなければなりません。その点、パワーポイントならば手軽に扱えます。そして、意外にもプロトタイピングツールとしても高機能なのです。

そんな便利な手法なのですが、特に日本では「知る人ぞ知る」という、ちょっと裏技的な存在でした。それは体系的にまとまった解説書がなかったからでしょう。『ペーパープロトタイプ』に関しては専門書が出て一気に認知が拡がりました。ところが、パワーポイントに関しては、まだ海外でも断片的な情報しかありません。そう言う意味では、この本は世界初かもしれません。(近日中に韓国語版を発行予定とのこと。)

本の内容は、基本操作(図形描画、リンクの設定、スライドマスタなど)からVBAによるマクロまで広くカバーしています。また、例題として、デジタルカメラとデジタル音楽プレーヤーの画面作成の手順が詳しく掲載されています。(この例題のファイルを入手することもできます。)

少し残念なのは、この本では、見た目も動作も比較的"リッチ"なプロトタイプ作成を中心に紹介している点です。実は海外では、もっと"アジャイル"な使い方が主流です。プロトタイプの大原則は「早く・安く」です。紙にスケッチを描くように迅速にプロトタイプを作る――そういった小技的なものも紹介されていれば、さらに良かったと思います。

【参考情報】

◆人机交互論:パワポでプロト
http://allnight.cocolog-nifty.com/usability/2004/08/post_2.html

◆著者(井上勝雄教授)のサイト:
http://www.iris.dti.ne.jp/inouek/

◆ 10 Minute Mock Prototyping - Tips for PowerPoint:
http://www.krisjordan.com/2008/09/07/10-minute-mock-prototyping-tips-for-powerpoint/

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2009.07.26

書評:SUBJECT TO CHANGE(日本語版)

◆ SUBJECT TO CHANGE -予測不可能な世界で最高の製品とサービスを作る-
http://www.amazon.co.jp/dp/4873113857

この本は、先日開催したUXブッククラブの課題本です。ここでは私個人の書評を記しておきます:

不確実な時代を勝ち抜くためのデザイン論

コダックカメラ、Tivo、iPod――これらは「革新的」と言われた製品ですが、それは必ずしもその時代に技術的に卓越していたという意味ではありません。これらは全て、製品単体としてではなく「システムの一部」としてデザインされているのが特徴です。もはや最先端テクノロジーや多機能化の追求だけでは、持続可能な競争力は維持できません。顧客は高機能・高性能な製品ではなく、総合的な優れた「体験」を求めているのです。

米国のデザイン会社「Adaptive Path」は、そんな「体験」を重視した製品やサービスをデザインすることで知られています。彼らは従来のマーケティングや経営管理で用いられる定量的で直線的なアプローチよりも、もっと定性的で逐次的なアプローチを好んで用います。エスノグラフィ調査を通じて人間を理解し、簡易プロトタイプを使ってアイデアを改善し、アジャイルな開発モデルに従い小規模な製品リリースを重ねます。

こういったアプローチは、決して「デザイナー」だけの任務ではありません。マーケティングやエンジニアリングを含めた組織横断的な活動とすべきです。また、複数のタッチポイントをまたぐような顧客の体験をデザインするためには、従来の階層的な組織構造の変化も求められます。

グローバル化と技術革新の加速により、私たちが暮らし、働いている世界は「予告なく変更(SUBJECT TO CHANGE)」されるようになりました。同じ製品やサービスを繰り返し提供するだけでは企業は生き残れません。私たちは変化を受け入れ、変化に対して柔軟に、迅速に適応しなければいけません。そのためには、体験中心型でアジャイルな開発を行える新しい組織が必要なのです。

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